大分私的なメモです。
幾度となく、書き記しておこうと思ったあの日のことを、
わたしはすっかり忘れていました。
それは、あの時の不安が消えたからなのでしょう。
まぁ、わたしの中からは、ですけれど。
でもいま、不意に思い出しました。
決してなくならないけれど、
薄れていく記憶と感触を残しておこうと思います。
私の記憶なので、細かいところは当てになりません。
友達の命が消えてしまうかもしれない、
という事実を前にした時、
私は本当に何も出来ずに呆然としました。
ひどい話で、病院にお見舞いに行ったのも、
多分2回くらいだったんじゃないでしょうか。
手術をする為に移った大きな病院に、初めて訪れた日。
以前お見舞いに行った時よりももっと、心臓がドクドクとなるのを
感じていました。
どんな顔で会ったらいいのか全くわからなかったから。
扉は二重になっていて、
自動ドアの向こうにはロッカーや手洗い、消毒する場所があり、
そこへ看護師さんが来て、コートはロッカーへ入れ、
中へ入ったらマスクを着用するなどの説明を受け、
病棟に進みました。
部屋へ案内され
「久しぶり」なんて普通の挨拶をして、
私は必死に探した四つ葉をラミネート加工したもの、それからCDとか、
誕生日プレゼントとかそんなものを渡しました。
「ありがとう」と笑った友達は
「ちょっとしんどいから、横になってていい?」と言い、
私は「うん」と返事をしました。
起こしたベッドに横になった友達の
右隣に腰かけて、
借りて来てもらった映画の話を聞いたり
お友だちが作ってくれた曲を聴かせてもらったり、
それを聴きながら、
友達が
外出許可をとり先日訪れたという小学校の生徒たちからの手紙を読み、
「やっぱり、女の子の方が断然大人だね」などと言い合って、笑いました。
話らしい話は殆どしなかったように思うのですが、
ゆったりとした柔らかい時間でした。
何かの拍子に私が
「手、つるつるだね。」と友達の手に触れた瞬間
「消毒ずっとしてると、なっちゃうんだよね。」
と友達が言いました。
ドキッとした。
「そっか。」
と、やっとの思いで声に出した時、
友達が私の手をぎゅっと握りました。
私も同じように握り返して
私達は、長いこと何も話さずにそうしていました。
消毒のし過ぎでつるつるの友達の手は、
見ただけでわかるくらいにむくんでいて、
だけど、あたたかかった。
物凄い勢いで思いが体を駆け巡ったけれど、
やっぱり無言のままそうしていました。
「○○さん、検診の時間ですよ。」と看護士さんが来て、
「じゃあ行くね。」とわたしは言い、
友達は、あの二重の扉まで見送ってくれました。
彼は今日も元気に生きています。
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